オキツモの技術力#3開発ストーリー第01回

200℃の耐熱性と45mW/m・Kという低い熱伝導率を持つ塗料

断熱・保温ペイント HIPエアロ

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設備に塗装される断熱塗料「断熱ペイントHIPエアロ」は2014年11月の発売後、設備からの熱ロスを減らし、加熱に必要な燃料代や電気代を減らすことを期待され、採用が広がっています。今回はこの「断熱ペイントHIPエアロ」の開発ストーリを紹介させていただきます。

塗料事業部 技術部 環境商品開発課 浦理

エアロゲルとの出会い、軽さとの戦い

熱の伝わりやすさは熱伝導率で表わされ、この数値が低ければ熱を伝えにくく、断熱になります。優れた断熱塗料を作るには伝導率の低い材料をできるだけ多量に混ぜることが必要になります。

熱伝導率は液体や固体より気体が低く、優れた断熱材として働くことができますが、流体であるため同じ所にとどまることはできません。温度差があると対流により動き、熱を移動させてしまいます。これを防ぐには気体を固定することが必要です。塗料は液体ですので、空気をその中に留め置くことはできません。そのため、塗料に使用される断熱材料としては風船のように空気を閉じ込めた中空バルーンが一般的でした。空気を閉じ込めた中空バルーンをたくさん塗料に混ぜることで低い熱伝導率を実現していました。しかし、中空バルーンは空気を閉じ込めるための固体の殻とそれが破壊しないようにするため厚さが必要で、熱を通しやすい殻が足かせとなり、空気の低い熱伝導率を十分生かすことができません。これまで弊社では断熱塗料を開発・販売してきましたが、中空バルーンを使う設計では塗料・塗膜とした時の熱伝導率に限界があり、より高い性能を求められるお客様に十分満足のいく製品を提供することができませんでした。

高い性能を持った断熱塗料をつくるには、中空バルーンを超える低い熱伝導率と軽さを兼ね備えた物質の選定が必要でした。

「断熱」するという事の難しさ

さまざまな物質を調査した結果エアロゲルという材料に行き当たりました。エアロゲルはその名の通り、ゲルから溶剤を取り除いて作られています。豆腐を凍らせ水分を取り除いた高野豆腐によく似ています。スポンジのような多孔性の構造物で、重量の95%が空気という非常に軽い物質です。多量の空気を含んでいるため熱伝導率は17mW/m・Kと固体としては最も低く、中空バルーンの代わりとなる条件を兼ね備えており、エアロゲルを使いこなすことで、より高い断熱性を持つ塗料の開発が可能と考えました。しかも、数nmという非常に細かい網目の中に空気を蓄える構造であるため一部が壊れて空気がなくなっても、熱伝導率は僅かしか上がらず、安定した性能を得ることができそうなことがわかりました。エアロゲルは理想的な断熱材料でした。

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軽いことは高い断熱性を持つ塗料を作るためには不可欠な要素でしたが、その軽さがエアロゲルを塗料に応用するうえで大きな障害となりました。塗料はいろいろな材料の混合物です。塗料の骨格を形作る樹脂、着色や断熱性の様なさまざまな性能を出す顔料、また塗膜となる時に蒸発してなくなる溶媒、これらを均一に混ぜることができないと理想的な塗膜ができず、さまざまな欠陥の原因となります。エアロゲルは非常に軽い材料で、水の10分の1以下の密度しかありません。水の中に風船を沈めたままにするようなものです。事実、エアロゲルを水の中に安定して均一に入れるために、多数の実験を行いました。最初は撹拌しながらエアロゲルを入れても、混ざりこんでいかず水面でぐるぐると回り続けたり、一旦混ざりこんでも撹拌をやめた途端に水面にエアロゲルが浮いてきたり…。 その後、「配合比率」「塗料粘度」「製造手順」「pH」「回転数」「運転時間」……長い時間を掛け、さまざまな因子を詳細に検討することで、安定して試作、また工場での生産が可能となり、熱伝導率が従来の塗料の3分の1の45mW/m・K さらには、一回の塗装で最大で0.5ミリまでの厚塗りが可能な「断熱・保温ペイント HIPエアロ」を商品化することができました。

断熱・保温だけじゃない、氷点下での使用や結露の抑制までも

発売開始後、熱を扱う様々なユーザー様に、塗装を検討いただき、また実際に塗装し効果を確認していただいています。石油、ガスなどを燃焼させる炉の表面にHIPエアロを塗装することで、表面温度が下がり、触れた時の火傷の危険性が下がった、熱さが和らぎ作業環境が良くなったなどの評価を頂いています。

また、工場の中には高温だけでなく、低温を扱われている場合もあります。低い温度での問題の一つが結露です。工場の大きなタンク、配管ではたくさんの水滴が発生し、設備や作業環境に悪影響を与えます。水滴が床に垂れて、滑りやすくなったり、カビが生えたりします。このような現象を断熱特性を持つHIPエアロを塗装することで緩和できないか、耐熱を離れた新しい分野でも検討いただいています。

私たちの想像を超えて、HIPエアロが社会のお役に立つことを願っています。

ARCIVES開発ストーリー 過去記事

第01回
断熱・保温ペイント HIPエアロ
2015.10.14更新
第02回
オキツモ「MCFコーティング」
2016.07.00更新
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